雪解け
地球温暖化が危惧されている中、今年の暖冬はダントツだった。
人間はわがままなもので、嫌いだった冬もあまり暖かいと、耳が痛くなる程
凍てついた空気で息が白くなり、歩くとキュッと雪が鳴る朝が恋しいような
気さえする。
したがって雪解けも早くなり、うかうかしているとブーツを履いているのは
自分だけ、厚手のタイツもさっさと脱がないと春に置いていかれる。
子供の頃 舗装されている道路はほとんどなかったので、この時季はぬかるみ
状態が長く続き、アチコチに汚い水溜りがあった。
待ちに待って乾いた道を短靴で歩く時の感動が、春だった。
〇十年前の若い頃も今とは比較にならず、桜咲く入学式にむろん花は咲かず
雪解けの汚い道を歩いて行かねばならなかった。
ある女子高のそばを通りがかった時、式へ向かう母娘とすれ違った。
その頃は着物姿で臨む母親も多かった。
真新しい制服姿の愛娘に正装した母、その晴れやかな光景は一瞬のうちに暗転。
母親が水溜りの中へ転んでしまったのだ。
少し離れたところで見ていたのだが、目が点‥ 気の毒を通り越して青ざめて
しまった。 帰りではない、式はこれからだ!
そしてなんと、娘は助け起こすどころか知らん振りを決めてスタスタと先へ
行ってしまったのだから、点になった目は線になり見えなくなった。
ああ、なんと恐ろしい娘に育ててしまったのだろう。
悔いるも哀し着物姿で泥の中‥
先を急いでいたし娘の行動が強烈過ぎたのか、その後の記憶が全くない。
雪解けが始まると決まって思い出されるのです。
ああ、その時のお母さん。可愛い孫に囲まれて幸せな老後をお過ごしで
あることを祈ります。

